Miroを使うと自然と組織変革が起きる、ニコンの設計現場で起きていること
公開日 2023年3月13日 最終更新日 2023年12月13日
カメラ業界において高い知名度と存在感を放つ、株式会社ニコン。
設計開発の現場では「先進的な働き方と職人技の世界との融合にチャレンジしているところ」だそうです。Miroを導入したことで、以前よりも楽しんで開発が行えるようになったとのこと。カメラレンズ設計を行う光学本部第三設計部の主幹研究員 嶋田俊之さんと長谷隼佑さんに聞きました。
ニコンの心臓部となる、レンズ設計部門「光学本部」
― まず、所属する事業部の概要とお二人の役割を教えてください。
嶋田: 私たちの「光学本部第三設計部」はカメラレンズの光学設計を行っている部署です。
コンピューターによる数値計算を駆使して光学設計をする傍ら、私はチームリーダーとして鏡筒メカ設計との調整を行ったり、生産現場との橋渡しやコスト確認も行い、製品全体の最適解を導く役割を担っています。2004年に入社して以来、コンパクトデジタルカメラの光学設計に携わり、現在はZマウントシステムのカメラレンズ開発を手掛けています。
長谷: 私自身も光学設計者ではありますが、カメラレンズ開発のためのソフトウェア制作や設計中のカメラレンズの性能評価用ソフトウェア制作、評価手法の改善改良などの業務を行っています。コロナ禍以前から、会議室の壁で付箋を使ってカスタマージャーニーマップを作ったりしていました。開発チームが共通のビジョンを持ちながら個々人の力を持ち寄れるようなアプローチとして、ソフトウェアを実装する担当者とUXデザインを含めたビジュアライズを試すこともよくあります。
設計も「チームで開発」する体制へ移行
― カメラレンズの設計における昨今を取り巻く状況はどう変化しているのでしょうか?
嶋田: 日本のカメラ製造は、戦後から本格的に始まりました。当時、弊社のカメラレンズの光学設計は「1製品1人担当」が通例でした。近年スマートフォンが普及し、デジタルカメラの市場がカメラを愛好するお客様を中心に成り立つようになった結果、カメラやレンズに求められる性能はかつてなく高くなっています。
そのような市場環境において、お客様にとって魅力ある製品を提供し続けるためには、複数の設計者が知見を持ち寄って、設計の完成度を高めたほうが望ましいと考えています。さらに、皆が協力しながら設計する体験の中で、次の世代の設計者が自ずと育っていくような仕事のあり方が必要だと感じていました。
コロナ禍で危機に直面
嶋田: そんな状況でコロナ禍に直面しました。出社ができなくなり、在宅勤務に移行した結果、チームによる設計業務の難易度が上がったのです。自分が行っていることが相手に伝わらないし、メンバーが行っていることも見えてこない。スピード感も人によって差が出るのでコミュニケーションには非常に苦労しました。
長谷: そこで導入したのがMiroです。対面で行っていたカスタマージャーニーマップ作成などもコロナ禍でできなくなり、ツールを探しているなかで出会いました。最初は私が個人で使っていたのですが、良いツールなので大々的に自部署で使い始めたのが2022年春からです。現在では社内で急速に普及しています。
設計開発の現場にはMiroが欠かせない
― どのようにMiroを使っているのでしょうか?
嶋田: まずチームビルディングや進捗管理に用いています。弊社のカメラレンズ開発プロセスはウォーターフォール型でしっかりとゲートが組まれているのですが、その枠内でアジャイル的に、1週間毎にタスクを洗い出して各人がボードに貼り付けて管理していく形を取りました。さらに、やるべきことと完了したことを付箋でカレンダーの横に貼付け、可視化していきました。
設計は緻密な計算のようでいて、実は感性も大事
レンズメーカーのWEBサイトにはレンズの断面図が載っています。
光学設計は緻密に数字を計算して……と思われているかもしれませんが、実はレンズの形をみて「感覚で判断する」ところがあります。もちろん突き詰めていくときちんとした理屈はあるのですが、感覚的な判断の部分は言語表現が難しいのです。
― 職人技といえるものでしょうか。
嶋田: そうですね。光学設計者は一体どのような思考パターンで設計しているのか。それをどうしたら次世代につないでいけるのか、光学設計技術を平準化できるのか。大きな課題です。思考の言語化に高い技術が必要なのはもちろんですが、言語にも抽象的な部分がどうしてもあって、受け取り方が人によって異なる場合もあります。ですから「言語」はある場面では最適な伝達方法ではないのかもしれません。
チームワークをしていて特に言葉で伝えにくいと感じるのは、製品の開発段階で発生する問題の構造や、情報同士の関係性です。Miroはそれを「視覚化」して共有できるところが良いですね。Miro以前のプロジェクト進行では、言葉の羅列でコミュニケーションすることが多かったのですが、問題の構造を視覚的に共有したほうが、チーム員の理解がぶれることなく深まるのです。
自分に足りないものは、きっと誰かが持っている
もう一つの事例をご紹介しましょう。以前の製品開発チームでは、「雑踏」、「子供」、「夜の街並み」などをどのように撮りたいか?そのような写真を実現するためには、どのような技術が必要か?Miroを使ってディスカッションしたことがありました。
僅か数時間のワークショップで様々な視点や意見が出てきました。私は「皆の知識は何かしら欠けている」と考えています。チーム活動を通じて、互いに足りないものを補い合うことが大切です。
長谷: ぼんやりとして理路整然としていないものが、Miroを使ってみんなで考えるなかで整理されていく過程は楽しく、自分たちで作り上げていく感覚になります。「理屈はあるが、数字だけでも言葉だけでもない」。レンズ設計の思考パターンとMiroは合っているのかもしれません。
長谷: ダイレクトに文章にすると「違う」と感じることもあります。思考をどうやって吐き出そうかというときに、既存のオフィスツールと比べるとMiroはストレスが少ないですね。
― ありがとうございます。カメラ・レンズ開発におけるその他のMiroの活用事例を教えてください。
嶋田: 光学設計の最終段階で、製品を試作したときに発生しうるリスクの抽出と評価にMiroを活用しました。従来のように一覧表形式でリスクを抽出すると、リスクの粒度を揃えたり、深刻度を視覚的に把握するのが難しいのです。この例では、ワークショップで抽出したリスクを整理分類したうえで、技術項目ごとにリスクの発生確率や影響度でマッピングしています。
レイアウトの自由度が高いMiroだからこそできるまとめ方です。
このワークショップを行うことで、リスクに対するチーム員の認識を一致させることが出来ました。
モノづくりは製造があってこそ
― Miroを使うなかで起きた組織の変化についても教えてください。
嶋田: レンズが優れた光学性能を発揮するためには、光学設計だけが良ければよいわけではありません。製造現場との連携が不可欠です。レンズの組立調整工程で何が起こりうるか、トラブルにはどのような対策が必要か、生産上のリスクを抑えつつ最大限に良いものを生産するにはどうしたらよいか、など。多くの関係者が考え、協力しながら生産を進める必要があります。
組織の壁は、壊すものではない
嶋田: Miroは生産・技術部門のメンバーにも使ってもらっています。モノを安定して製造するためには、設計、生産技術、量産管理など様々なノウハウの総力が必要になります。それぞれに専門性がありますから、組織も機能毎に分化しています。Miroを使い始めた頃から感じていることは、それぞれの組織から専門性を持ち寄って、ミッションベースで仕事を進めることの妙味です。
組織を一つ一つのムラ(村)になぞらえると、広場にそれぞれのムラ(村)から人々が集まって、協力してひとつの祭りを成し遂げるような感覚でしょうか。組織の壁が高く感じるからといって壁を壊したところで、組織は混乱してしまいます。壁から出てきて集まることのできる広場のような場所があると、うまくお互いの持ち味を活かして開発が進められるのです。Miroはまさに広場の役割を担うことのできるプラットフォームだと思います。
「誰々さんの意見」ではなく、「水色の付箋の意見」
長谷: 弊社には少し控えめなメンバーもいます。大勢でワイワイ議論を重ねるより、寡黙に会議に参加することを好んだりする人ですね。そんなメンバーも、Miroを使ったワークショップでは付箋を使って積極的に自分の意見を出すようになりました。
Miro上では「誰々さんの意見」ではなく「水色の付箋の意見」といったように、デジタル記号化されるバーチャルな一面があります。入社年度や立場に関係なく意見を書き込めるので、心理的安全性が守られる感覚があるのだと思います。
コロナ禍も落ち着いてきた2022年は出社とリモートの半々の割合になりつつありますが、出社して議論をする際にもみんなヘッドセットを付けてMiroに集まって話をしています。それだけ手放せないツールになっています。
「頑張らなくても変わっていける」、そんな組織へ
― これからのニコンについて、お二人の考えるところをお聞かせください。
長谷: これまでのニコンには「もっとよりよく働けるはずなのに、出来ていない……」という潜在的な問題意識はあったと思います。とはいえ、どのようにすればいいのか、あまり議論する機会もなかったと思います。Miroのパイロット導入のとき、「生産的」とか「使える」といった意見を想定していたのですが、「楽しい」という反応が予想以上に多かったのに驚きました。「そうそう、こんなツールが欲しかった」という感覚があると思います。
Miroを使って楽しみながらチームで仕事ができるようになると、受動的に仕事をするような状態とは違って、創造性の天井が取り払われた状態になります。私はそのようなチーム活動の在り方を大切にしていきたいですね。
嶋田: Miroをチーム活動の場にして、論点を可視化しながらオープンに議論することで、「様々な考え方があることが分かってきた」、「気が付けば今まで以上に広くモノを見られるようになっていた」といったように、チームメンバーが自然に成長していけるような変革を起こしたいと考えています。チームメンバーの成長がチームの成長につながり、それがやがては、お客さまにより満足していただけるニコンのモノづくりの基礎につながっていけばと考えています。
「理屈はあるが、数字だけでも言葉だけでもない」
Miroは、世界で8,000万人が利用し、25万以上の企業が採用しているイノベーションワークスペースです。組織が生産的に業務を進めるための多くの機能とエンタープライズ水準のセキュリティを備え、日本では120万人以上に幅広くご利用いただき、TOPIX100の60%以上の企業に採用されています。試験的に導入してみたい、説明を聞いてみたいなどのご要望がありましたら、お気軽にお問合せください。