お客様事例インタビュー

現場を知っているから「実践できるデザイン」が分かる。変革を遂げる富士通が、毎年500人の新入社員にMiroで行う研修とは?

公開日 2024年4月2日 最終更新日 2024年4月3日

現場を知っているから「実践できるデザイン」が分かる。変革を遂げる富士通が、毎年500人の新入社員にMiroで行う研修とは?

日本を代表するIT企業である富士通株式会社。数年前から全社的にDX企業に変革するための取り組みが始まっているそうです。一環として、毎年部門に500名規模で配属される新入社員SEに向けて、Miroを活用したデザイン研修を行っているとのこと。その背景と、どのように研修を行っているのかを聞きました。

語り手はジャパン・グローバルゲートウェイ デリバリーテクノロジー推進統括部シニアマネージャーの奥村典子さん、渡辺裕城さん、津田向志さん、デジタルシステムプラットフォーム本部CIO Officeの木村佳代さんです。

※所属・肩書は2023年11月取材時点のものです。

IT企業からDX企業へ変革を遂げる富士通

― ジャパン・グローバルゲートウェイ デリバリーテクノロジー推進統括部がどのような部署なのかを教えてください。

奥村: 富士通は、「IT企業からDX企業へ」を掲げ、全社レベルでの変革を推進しています。そのなかで、「ジャパン・グローバルゲートウェイ」は、富士通が提供するサービスデリバリーの変革に取り組んでいます。

メンバーは全体で約8,000名、私たちが所属するデリバリーテクノロジー推進統括部は、特に商談推進や最新技術の活用をリードする立場として、300名弱が在籍しています。そのなかで我々はデザインの理論や技術を活かして、商談推進やプロジェクトの品質向上に貢献する役割を担っています。具体的には、お客様プロジェクトや社内プロジェクトにおけるデザインを活用した企画検討の推進のほか、標準化や人材育成に取り組んでいます。

「ジャパン・グローバルゲートウェイ」という名前には、日本だけでなくグローバルレベルでビジネスを捉えていくことと、メンバーは世界各地に居ますから、一緒に取り組んでいく、という想いが込められています。

奥村典子さん

入社するSE全員がMiroで学ぶ

― 富士通のSEは、新入社員研修で全員がUXデザインを学ぶそうですね。

津田:私達は人材育成の一環として、様々な教育プログラムを開発して提供しています。新入社員研修として提供しているのは「UXデザインの基礎」というプログラムで、他に新入社員以外の社員も受講できる「インタビュースキル」や「ユーザビリティ」といったものがあります。

津田向志さん

― SEがUXデザインを学ぶと、どのような効果があるのでしょうか。

富士通では様々な業種業態のお客様のシステム開発に取り組んでいて、私が関わったプロジェクトだけでも、製造業や官公庁、最近ではヘルスケアや物流企業など、本当に様々です。SEは、一度配属先に着任すれば、案件に合わせた柔軟な振る舞いが求められ、一人ひとりが考えなければならないケースも出てきます。

同じ技術を用いても、お客様のことを考えて設計するのとしないのでは、成果物の価値が大きく異なってしまうでしょう。私たちは、そんなときにエンジニアが利用者の視点を踏まえた変革や、課題解決につながるシステム検討ができるよう、この研修コンテンツで基本的なマインドセットを獲得できるようにしています。

― なぜ、Miroで独自の研修コンテンツを作るようになったのでしょうか。

津田:デザインやUXを独学しようとすると、どうしてもコンシューマー向けサービスやWEBサービスの事例ばかりが出てきます。富士通の主領域であるBtoBや業務システムといった現場で活かせるデザイン思考の取り入れ方、「現場においてどんな知識や実践力を持っていてほしいか」は、私たちの手で設計する必要があると考えました。

Miroであれば、意図したとおりの研修プログラムを自由自在に組み上げることができますし、受講者が大人数で一度に作業することも可能です。

― 研修は、渡辺様と津田様のおふたりで実施されているとのことですが、今までどれくらいの社員が受講されたのですか。

渡辺:「UXデザインの基礎」は、ジャパン・グローバルゲートウェイに配属される新入社員SE約500名に毎年受講いただいており、これまでに累計で2,000人以上が受講しています。その名の通り、UX=ユーザエクスペリエンス(利用者体験)について学ぶ研修です。


研修は丸1日かけて行い、1回あたり24人のメンバーを対象に実施しています。ワーク形式の研修は24人を超えると発表時間などが制限されてしまうので、学びの深さを重視して少人数に絞り、時間がかかっても丹念に実施しているところです。

渡辺裕城さん

― 積み重ねて、累計2,000人以上はインパクトがあります。そうして内側から変革が進んでいくのですね。

お客様に寄り添うシステムを作る

― どのようなことが学べる研修なのか教えてください。

津田:全体は、1.座学、2.演習、3.座学、4.演習(4の演習は、2と同じ課題に取り組む)という構成になっています。この研修では、ペルソナやカスタマージャーニーマップといったフレームワーク/手法の学習は行いません。

― ペルソナやカスタマージャーニーマップを使わずに、どうやってUXデザインを教えていらっしゃるんですか?

津田:ペルソナやジャーニーマップが全く登場しない訳ではありませんが、なぜUXが大切か、体験できることに重きをおいています。まず、最初の座学で、UXデザインに関するよくある誤解について学びます。そのうえで、4人ずつのグループに分かれて、簡易な要件に基づいた画面設計という、実際の業務の疑似体験に取り組んでもらいます。

2度目の演習では、どんな利用者がシステムを使うのかのイメージをふくらませるためにペルソナを提供して、再度同じグループで同じ画面検討を行います。ここで、ペルソナの有無によって検討プロセスやアウトプットが変わってくることを体感してもらいます。最後に、実体験したことがどういった手法や理論に基づいているかの知識を学習します。

たった1日の研修ですが、利用者視点に基づいた検討ができているかどうかによって、Before・Afterでアウトプットがどんな風に変化するのかを体験することができます。

こうしてUXデザインの重要性を肌で感じてもらうことで、実業務の現場で「こういった利用者にはこう考えるほうがいいのでは。」と、自然と利用者視点に基づいて考えて実践できるようになる、というのが狙いです。

― そして最後には、他のチームのBefore・Afterも見られるということですね。研修自体が「体験設計」になっていますね。

津田:実は、もう一つの体験設計があります。研修用とは別に、研修に関わらず受講者が書き込む共通の「自己紹介」ボードがあるんです。そして毎回、事前に自己紹介を書いてもらって、研修後には「今日何を学んだのか」を記入してもらっています。

研修の受講者の学びが集合したMiroボード

富士通では、同期入社といってもSEだけで500人規模です。また、この研修は少人数の24人ずつ実施しているため、入社直後に受ける方もいれば、入社半年経って受ける方もいます。ですので、本当に気づきも様々です。

受講回が違っても、困ったときに自己紹介のMiroボードを覗いてみれば、目前の案件に役立つ気づきが眠っているかもしれません。気づきや学びを記録することが、会ったことがない同期への贈り物にもなりますし、講師にとっても学びになるMiroボードになっています。

― 素敵な仕組みですね。実際に研修をどんな風に進めているのかを教えてください。

渡辺:研修はZoomでオンラインで行い、演習のときにはグループ毎にブレイクアウトルームに分かれて演習問題を解きます。全チームが同じMiroボードを使い、演習の際には、それぞれがチーム専用の演習スペースで作業します。

演習中は私と津田でブレイクアウトルームの様子を見に行き、検討して欲しい内容と離れた方向に議論が行ったまま戻れなくなっているときなどに、方向性を戻す程度のサポートをします。Miroではカーソル表示をオンにしておくと、どのあたりの進捗かは一目瞭然です。少し離れた場所に要件を確認しにいっている様子なども分かるので、大変助かっています。

カーソル表示をオンにした状態
カーソル表示をオフにした状態

― 渡辺さんは、汎用機やUNIXでのソフトウェア開発からアジャイルの実践まで、多様なご経験があるとお聞きしました。となると、受講者が要件定義を間違うところなどは、よく見えてしまうのではないでしょうか。そんなときはどうされていますか?

渡辺:私の経験として、現場でSEが要件定義をする際に利用者のことを考えずに自分だったらで要件を考えてしまったり、お客様のキーマンの言うことをそのまま採用してしまったりするケースを見て来ました。

研修における受講者の場合、間違えるというよりは正解に効率よくたどり着きたい傾向が見える、というのはあると思います。そうしたケースに気づいたときは、なるべく決めつけたり、正解を言ったりしないようにすることで、考えさせる機会を持たせるようにしています。

― おふたりで24人の受講者をサポートするのは大変ではないでしょうか。全員が遅れないようにする工夫はありますか?

津田:プログラムのステップ毎にタイマーを設置していて、要所でタイマーをかけています。

Miroのタイマーをかけた際に、グループ毎にどこで何分間の作業をしているのか直感的に分かるよう工夫されたMiroボード

また、知らない人同士でグループを組むことがほとんどなので、合意形成に時間がかかることは念頭に置いています。例えば業務フロー図の部分は白紙のスペースではなく、付箋と矢印を組み合わせたダイアグラムを置いておき、協力して虫食い問題のように解くことができるようにしたり、左側にヒントを置いておいたり、といった工夫です。

業務フロー図作成でグループが迷いすぎないように、付箋と矢印を組み合わせたダイアグラムの虫食いにし、時間内に集中して話し合えるように工夫している
どのように話し合うとスムーズかのヒントを設置し、迷わないように工夫している

時間どおりに、受講者が納得して演習を終えることができるよう、私たちも少しずつ改善を加えていっています。その点、Miroボードで構築する研修プログラムは、課題があれば柔軟に変更を加え、すぐに実践できるところも魅力だと思います。

もうひとつの工夫は、Miroボードの上で迷子になる人を出さないということです。自分がどこを見るべきなのか迷いなく分かるよう、演習の全体ステップのどのあたりにいるのかを明確にしています。演習プログラムは、進捗に合わせて上から下へ一方向に移っていく構成にしているのですが、進捗に合わせて大きな矢印もずらして、「ここだよ」と、現在位置のポインターとして使っています。

講師が1つのオブジェクトを動かせば全グループに「今取り組むべきワークエリア」を図示できるように工夫している

― この矢印オブジェクト、6グループ分がグループ化されていて、講師は1つのオブジェクトだけ動かせばいいようになっているんですね。これは素晴らしい発明です。

― 富士通はグローバル企業ですので、日本語が母国語ではない受講者の方もいらっしゃると思います。どう対応されているのでしょうか。

津田:新入社員のバックボーンは中国やインド、アメリカなど多様です。日本語での研修が難しい受講者がいる場合には、日本語をリアルタイムで英語字幕に変換してくれる「Fujitsu Software LiveTalk」を併用しています。なかなかいい精度で英訳してくれるので、重宝しています。

研修中には、Fujitsu Software LiveTalkでリアルタイムに英語自幕を表示して多言語化する

― なるほど。テクノロジーで解決されているんですね。

富士通の変革の手応え

― 実際に研修を受けた方の声はいかがですか?

津田:Miroボードに寄せられたコメントで、他の人とやるからこそ多角的に見ることができた、Miroの作業が刺激的だった、といったものがあります。

また、私たちはこの研修のなかで「デザインは設計と読み替えることができるので、UXデザインはSEの業務でもある」というメッセージを伝えています。これに対して「デザインはデザイナーの領域という固定概念があったが、とても腑に落ちた」という声がありました。研修の狙いである”基本的なマインドセットの獲得”につながっていると嬉しいですね。

他に、開発工程に配属されたSEから「決まりきった内容を実装していく仕事と思っていたが、開発工程の前にはお客様の思いがある、考えて作らなければならない。」という印象的なものもありました。コメントは、私たちにとっても励みになっています。

必要なときに、必要なSaaSをすぐに活用できる企業になる

― 今日は、デジタルシステムプラットフォーム本部の木村さんにもおいでいただきました。木村さんの役割についても、教えてください。

木村:デジタルシステムプラットフォーム本部は、一般的には情報システム部に相当する部署です。私はMiroの担当として、社員が業務変革を進めるにあたって、適切な場面でMiroをうまく活用できるようにするミッションを担っています。

ジャパン・グローバルゲートウェイが実施する「インタビュー研修」は私も受講したのですが、Miroをうまく使った構成で、とても面白かったです。Miroの使い道は本当に多様です。ジャパン・グローバルゲートウェイの研修でMiroに触れた社員が、この先「ここはMiroなら効率よく進められるのではないか。」と思ったときに、すぐに活用できる環境を目指していきます。

木村佳代さん

デザインの力を自律的に活用できる人を増やす

― ジャパン・グローバルゲートウェイの今後の展望についても教えてください。

奥村:二人がデザイン研修の実践で磨き上げてきたノウハウを、富士通のSEだけに提供しているのはもったいないと感じています。受講者から寄せられたコメントのように、マインドの変化を起こせていることは大きな成果です。全社に広げていきたいですし、DX人材の育成やシステム内製化を必要とするお客様にとっても有用です。技術とデザインの力を自律的に活用できる人を、もっと増やしていかなければならないと考えています。

\Miroは日々進化しています/

Miroの製品アップデート情報はこちら

アップデート情報をMiroボード版で閲覧したい方はこちら

Miroは、組織が生産的に業務を進めるための多くの機能とエンタープライズ水準のセキュリティを備え、グローバルではFortune100企業の99%が採用、7,000万人が利用しています。また、日本ではTOPIX100の60%以上の企業に導入いただき、120万人以上が利用中です。

試験的に導入してみたい、説明を聞いてみたいなどのご要望がありましたら、お気軽にお問合せください。

  • 製品の操作方法やサポート情報は、ヘルプセンターをご利用ください。
  • Miroの障害・メンテナンス情報については、こちらをご確認ください。

Miro Japan blog

これからの時代にチームがよりよく働くための情報を発信します。 「チームが集まり、働くための場所。」 アジャイルな組織づくりをささえる、イノベーションのためのビジュアルワークスペース Miro