良いクラウドサービスは明日からでも使える。NTTドコモCCoEチームが心がけるSaaS管理の極意とは?
公開日 2024年1月24日 最終更新日 2024年1月24日
企業がパブリッククラウドサービスを導入し上手に活用することは、昨今ではコスト管理や社員の生産性担保のために欠かせない経営リテラシーとなってきています。
そんななか、NTTドコモではかなり早い時期からCCoEチームを持ち、現在では社員10数人でNTTドコモグループが利用するクラウドサービスの利用支援や数万件に及ぶアカウント管理を行っています。その秘訣は「なるべく管理しない」「コミュニティ化する」ことにあるそう。
CCoEとMiroの導入について、R&Dイノベーション本部サービスイノベーション部クラウドソリューション担当 担当部長の森谷優貴さんと、クラウドソリューション担当の長野孝亮さんに聞きました。
どうせやるなら、みんなが使いやすいように
― お二人についてと、お二人が行われているCCoEについて教えて下さい。
森谷: 私たちはドコモの研究開発部門にあるサービスイノベーション部でCCoEに取り組んでいます。CCoEとは「Cloud Center of Excellence」の略で、ドコモグループの社員が円滑にパブリッククラウドサービスを利用できるための環境整備とサポートを行っています。私は米国東海岸にいた数年間を除き、10年ほどはCCoEに関わってきました。
― クラウドネイティブの時代になり、クラウドOpsやSaaS Opsについては聞いたことがありました。ですが、ここまで従業員数の多い日本企業でそのようなお取り組みがあるのは、かなり先進的に感じます。いつ頃から始まったのですか。
森谷: 2013年頃でしょうか。AWSなどパブリッククラウドサービスを用いて商用サービスを提供する際に、アーキテクチャ設計や社内向けのガイドライン整備などを行うところからスタートしました。
― そんなに早くからですか。
森谷: ドコモが技術の会社だから、というのはあると思います。我々のチームにはパブリッククラウドのノウハウが溜まっていました。であれば、自分たちが良いと思うサービスをみんなも使いやすいように管理したらいいだろう、と考えました。自分たちと同じことを他所で一から繰り返しても非効率ですので、自分達が使うついでに環境整備する。そのスタンスは今も変わっていません。
― 意気込んでCCoE専属チームを立ち上げよう、という発想からではなかったんですね。
森谷: あとから「あぁ、自分たちがやっていることはCCoEだね」、と。現在では規模も大きくなり、Miro以外にSlackやBacklog、AWS、Okta、Zendeskなど多くのシステムを扱っています。また、認証方式の変更に伴い社内の認証制御環境を更改する、数テラバイトものデータ使用量になるシステムの場合にはSaaSでなく独自に構築する、といったインフラ整備も行っています。
― 長野さんはMiroご担当とのことですが、どんなことをされているのですか。
長野: 私は新卒で入社し2年目です。具体的な業務としてはSaaSの導入検証、管理方針の策定、ドキュメント作成、ライセンスの払い出しなどを行っています。業務のうちMiroが占める割合は1/10程度でしょうか。手間をかけ過ぎることなく運用できています。
― 検証や運用ではどんなところを見ているのでしょうか。
長野: 検証では「使いたい人の使い勝手がいいこと」、「意図したユースケースどおりに使えるのか」というところを見ています。運用改善の際も同様で、ユーザーの声を聞きながら、どうすればよさそうか検討と検証を繰り返します。バックエンドの対応としては、プラグインの検討やバージョンアップを進めるといった快適な利用環境を保持する他に、自動化を取り入れるなど効率を上げることも意識しています。
いいものは「水が流れるように」使って欲しい
― SaaSの選定ポイントはどんなところにあるのでしょうか。
森谷: ドコモグループの社員に限らず、いいものは「水が流れるように」使えることが理想だと思います。例えば、モダンな開発でAWS、Newrelic、Google Driveを活用したいなら迷わず試せる、新規事業のブレインストーミングにMiroが必要なら明日から使い始めることができる、といったように。
長野のような20代の世代は、いわばクラウドネイティブです。上の年代の者として、感性が高い人材が好きなようにツールを使い、いつでもやりたいことや新しいことができるようにしたいと考えています。
ただ、逆説的には、私達は自分たちがいいと思ったもの以外はCCoEの対象にしません。ですのでそれを狭めないためには、他の部署がCCoEにチャレンジしてくれるのも大歓迎で、「CCoEの作り方」というマニュアルも公開しています。もし、どんどんそうなっていけば、私達は空いた時間で他にやりたい研究開発にも取り組めますしね。
― SaaSを「水が流れるように」使うには、どのような環境にすればよいでしょう。
森谷: 私達は管理統制のためのゲートキーパーになろうとは考えていませんし、ユーザーとは、提供者と受益者に留まらない関係でいたいと思っています。
ひとつは、SaaSに関する問い合わせ。数種類のSaaSを数万アカウント規模で扱っていると、問い合わせだけで月1000件は下らず、年間では数万件になります。管理にはZendeskを用いていますが、回答者は私達だけに限らず、Zendeskを介して分かる人が回答するコミュニティのような助け合いが生まれています。これが自然とFAQのナレッジベースとして働きますし、誰かがSlackでHelpチャネルを公助的に立ち上げることもあります。
もうひとつは、アカウント管理。アカウント追加を逐一私たちの部署で行っていたら埒が明かず、ボトルネックになってしまいます。SaaSを選定する際に、統制や監査ログなどのセキュリティ要件はもちろん重要です。一方、運用設計の観点からは、現場のユーザーにある程度の管理権限を委譲できるSaaSであるかが重要です。実際に使う人達が、オーナーシップを持ってユースケースとセキュリティのバランスがとれた運用を考えていけるといいと思います。
何でもそうかもしれませんが、パブリッククラウドのSaaSもユーザー自身が頑張って管理し使ってみるからこそ、「こうしたい。変えてみたい。」という意思が出てきます。ユーザーのリテラシーの底があがっていくことが重要です。こちらが啓蒙して嫌々使わせるのには意味がなく、人気があるものはおのずと広まりますし、そうでないものは使われなくなります。
― ライセンス利用料の費用処理はどうされているんですか。
長野: 申請してもらえば、利用部門宛の請求明細が自動作成される仕組みになっています。また、その明細を社内システムに取り込むことによって、月次の費用按分も自動化することができます。
― 使わなくなってしまったときの棚卸しなど、ライセンスのライフサイクルはどうされているのでしょうか。
長野: 防波堤的に、6ヶ月活動がなければライセンス割当を削除する等で無駄遣いしない工夫をしています。
― 情報システム部とCCoEの棲み分けはどうされているのでしょうか?
森谷: 何か相反するわけではないので、協力関係にありますよ。情報システム部の提供基盤は私達も使っていますし、私達がCCoEの取り組みで共通基盤化したJiraやConfluenceは情報システム部もユーザーです。何らか課題解決や統制を協力してやるほうがよければ、声をかけて一緒に考えています。
「自分たちのためになる」が導入のモチベーション
― Miroはどうして採用してくださったのでしょうか。
森谷: 私の場合は、米国西海岸にいた10年以上前に触ったことがあり面白いツールだとは知っていましたが、再び今の業務で使おうとまでは思っていませんでした。
長野: 私もMiroは知ってはいましたが使ったことはなく、社内から「使いたい」という要望が多数あったので、数ヶ月の検証を経て採用しました。ドコモグループの働き方は「リモートスタンダード」です。使ってみるとMiroは非同期でもやりとりがしやすく、付箋を活用することで意見が言いやすくなるなど、働く場所に左右されずにコミュニケーションができます。「リモートスタンダード」の働き方とはとても相性がいいと感じました。
― みなさんはどんな用途でMiroを使われるのでしょうか。
長野: Miroはもともと使っている人が多かったようで、新規事業の部署であればブレインストーミング、アプリやシステム開発の部署ではアジャイル開発で使われています。私達のグループ内では、これからディスカッション以外の場面などでどう活かしていこうか、という段階ですが、いろいろな使い方が考えられるので取り組みが楽しみです。
― ドコモグループとしてMiroを共通基盤化するにあたり、どんなところが利点でしたか。
長野: 利用部門に管理権限を委譲しながらも監査証跡のログを追える点、また、FLP※があるのでライセンスの追加工数を削減できるところが利点でした。
※FLP・・・Flexible License Program(フレキシブルライセンスプログラム)。通常、所有しているライセンス数以上の利用希望者が発生した場合、そのたびに発注処理を行う必要がありますが、本オプションを有効にすれば、半年に一度の見直しと追加を行うだけで、コンプライアンスに違反することなくMiroの利用が可能になります。エンタープライズプランでご購入いただくお客様に限り、ご利用いただけるプログラムです。
CCoEは競争領域ではない。企業を越えて、オープンに。
― 将来の組織運営や改革を進めるにあたって、パブリッククラウドやSaaS管理で悩まれている情シス部門やDX掌握部門は多くあると思います。なにかアドバイスをいただけないでしょうか。
森谷: クラウドの導入についてご不安であれば、「ドコモ・クラウドパッケージ」という形で私達がご支援するサービスもあります。ですが、パブリッククラウドはオンプレミスと違い、企業を越えてみんなでノウハウを参考にできるものであって、競争領域ではありません。
Miroもそのひとつですが、クラウドネイティブの世代や感性が高い人材が、業務で必要だと感じたときに必要なツールをすぐに使える、そのような環境は、他の企業でも真剣に整備するに値すると考えています。
私自身は、CCoEについてゲートキーパーにならない、なるべく手を動かす、また、第一人者が教える、課題をオープンにする、といったことを心がけています。もしCCoEについて学びたいご要望があれば、喜んでお話しますし、ドコモ・クラウドパッケージのサイトでeBook等も公開しています。何より、企業の壁を越えてオープンにすることで、海外のやり方を真似するだけでなく、日本企業なりの使い方を学び、育てていけるとも考えています。