デジタルツールが「働きがい」格差を埋める?従業員体験を高めるために避けるべき6つの危険因子とは
公開日 2022年7月25日 最終更新日 2024年9月12日
3つの働き方改革のうち「働く場所の柔軟化」が急速に進んだ
2020年のパンデミック以降、多くの企業は、急速に在宅勤務環境を整備してきました。そのため、もう少し時を戻せば、リモートワークはもともと働き方改革の「働く場所の柔軟化」の一部だったことを忘れてしまいがちです。スーパーフレックス制など「働く時間の柔軟化」を推し進めた企業もありました。おさらいをしてみましょう。
働き方改革の3つのはしら
生産性向上
- 労働時間管理
- 業務改善、効率化
- 組織・事業デザインの見直し
- 生産性基準の評価
柔軟化
- 働く場所の柔軟化
- 働く時間の柔軟化
多様化
- 所属の柔軟化
- 多様性支援、均等処遇
※リクルートマネジメントソリューションズ【調査発表】「『働き方改革』と組織マネジメントに関する実態調査」の調査項目分けより
もちろん合わせて生産性向上や多様化にも取り組んでいる企業もあり、副業解禁など「多様化」も進んできています。ですが、コロナ禍の到来によって全体的に働く場所の柔軟化と働く時間の柔軟化が時計早回しで進んだ状態だといえるでしょう。
これからは本質的な「働きがい」を追求するフェーズになる
在宅勤務とオンサイトの対面勤務が混在するハイブリッドワークが定着し、取り組むべき課題は変わりました。これからの「働き方」や「働きがい」を考えるにあたり重要なこととして、働く場所と時間の柔軟化にともなって人々の考え方も変化し、以前より「働きがい」の前提に「働きやすさ」を意識するようになっていることが挙げられます。2020年以降、米国ではGreat Resignation(大量自主退職時代)が話題となりました。これからは、働く場所や時間の柔軟性そのものよりも、本質的な「働きがい」、その前提である「働きやすさ」とはなにかを腰を据えて追求するフェーズになります。
「働きやすさ」は業績向上につながる
それでは、企業が従業員の「働きやすさ」を考えることは、業績向上につながるのでしょうか。結論からいって、「相関するもの」と考えて取り組むのが賢明です。
例えばEX(従業員体験 Employee Experience)の向上がCX(顧客体験 Customer Experience)の向上につながることは、よく知られてきています。EXとは「その組織や会社に属していることで得られる体験」、CXとは「顧客がその組織や会社から受けるサービスで得られる体験や価値」といえます。
もし、あるサービスで自分が無価値であるかのように扱われたり、やらされ仕事だと露骨に感じる接客を受けたら、そのサービスにいい印象は抱けなくなります。仕事に誇りを持って自律的に取り組む従業員の提供するサービスは、おのずと質が高まっていくものと考えられています。米国のザッポスの事例を思い起こす方もいらっしゃるでしょう。
リクルートマネジメントソリューション社が実施した調査では、社員が「個人が生かされるようになった」「組織に協働・共創が生まれた」のどちらも感じている場合は、生産性や事業成果の向上にもポジティブな関係にあることが報告されています。
整備すべきは、「格差を生まない」ツールとルール
企業によって指針も文化も異なりますが、従業員体験を向上させたい企業がすぐにでも取り組むべきなのは、「働く人のいる場所や時間の違いによって格差を生まない」ことです。対面とオンライン、早朝出勤や時短勤務など、働く人のライフスタイルに柔軟に対応する働き方では「どんな働き方をしている人の体験もよくなるように設計する」必要があります。
働く本人が最もパフォーマンスがあがると考える時間と場所を自ら選択できることには、裁量と責任が生まれます。「その組織や会社に属していることで得られる体験」が生産性や事業成果の向上につながるのだとしたら、生まれた裁量と責任に、どのように「組織との結びつき方」や「コミュニケーション」の体験をつなげるのか、企業側はしっかりとロジックを持ち、従業員に説明可能にしていく必要があります。
設計にあたっては「オンライン」で働く場面がある以上、「働くツールをデジタルツールに寄せて設計する」必要があります。この視点が抜け落ちていると、対面で働く人はその場にいなかった人への配慮に工数がかかる、必要な情報が集約されていない、取り出せない、などリモートワークも出社勤務も苦痛を伴うものになる恐れがあるばかりではなく、サービスの品質低下や重大なミスにもつながりかねません。「働く場所や時間の柔軟化」は「働き方改革」の一部であり、生産年齢人口が減っていく日本において優秀な人材を獲得し続けるためには、どの企業も真剣に取り組むべきテーマです。また、その方法としてDX、デジタルトランスフォーメーションが含まれます。
ペプシコ様は3年かかる製品リリースを10ヶ月に短縮
Miroは「デジタルホワイトボードテクノロジー」にAI機能を搭載した、誰でも使いやすく、組織に一体感をもたらすことができる最適なツールです。例えばペプシコ様は、社内の通例では3年かかるとされている製品リリースを、10ヶ月に短縮しました。働き方の柔軟性や差異に直接的にアプローチするのではなく、Miroを活用し多国籍メンバーが時差のハンデを乗り越えて課題解決や意思決定を果たすことで、コロナ禍前よりも早いスピードで新製品投入を果たすことができました。革新的なアイディアだけではなく、市場への対応の早さによって市場制覇のキーを握ることもできます。早さはイノベーションになるのです。
ここで改めて、リモートワークで管理が難しいと感じられたちなものを挙げてみましょう。
リモートワークで管理が難しいと感じられがちなもの
対面勤務に比べてリモートワークでの管理が難しいものとしてしばしば挙げられるものには、以下のようなものがあります。
働く人の健全さ
- 働く時間の管理(定量)
- エンゲージメント維持、バーンアウトなどのメンタルヘルス(定性)
働く人の成果と組織の連動
- 目標設定と評価の進め方
組織の健全さ
- 雑談が減ったことによる見えにくいネガティブ効果
日本企業は出社頻度でカバーしすぎている?
野村総合研究所が2022年2月に実施した東京都内の大企業に勤める人を対象としたアンケートでは、約7割が理想とする出社頻度を週3日以下としており、45%もの人が現在の出社頻度は「理想よりも多い」と回答しています。このギャップは非常に心配です。対面でないとどうしても難しい業務はあるでしょう。しかし、リモートワークのようなデジタル化によって顕在化した課題を、企業側は働く人の意識よりも過剰な出社頻度でカバーしているかもしれません。
従業員体験を高めるために避けるべき6つの危険因子
「働きやすさ」はやや広すぎる概念的な言葉であり、EX 「その組織や会社に属していることで得られる体験」はどうしたら高められるのかがイメージしにくいため、焦点を合わせるために、Leister and Maslach 2008によるバーンアウトを招きやすい6つの危険因子に着目してみます。
1 | 過重労働 | 作業量や質が、こなせる限度を超える |
2 | 自律性の欠如 | 自身の作業を左右する意思決定であるにも関わらず、それに対する発言権がない |
3 | 不十分な報奨 | 経済的、組織的、社会的な見返りが十分でない |
4 | 人間関係の断絶 | 精神的な支えが得られない職場環境 |
5 | 公平性の欠如 | 意思決定のプロセスが公平性に欠ける |
6 | 価値観のずれ | 担当者個人の価値観が組織のそれと一致しない |
これらをなるべく遠ざけるように、ハイブリッドワークにおけるEX 「その組織や会社に属していることで得られる体験」を設計していきます。
ハイブリッドワークの世界の流れ、変化した働く人の意識は、既に1社の力だけでコントロールできるようなものではありません。EX、CX、DXをうまく組み合わせ、適応するための施策を早く試して切り替えていきましょう。
ハイブリッドワークにおけるEXを高めるためのDX不足を知る方法
改めて、対面勤務とオンラインの格差をなくすことは、働く体験をデジタルツールに寄せて設計することを意味します。理由はシンプルで、対面で働く人にPCとネットワーク接続があればデジタルツールに参加できますが、オンラインでつないでいる人が対面の現場に実際に行くことはないからです。ですから「対面とオンラインの格差をなくす」ケイパビリティとは、その企業のDXの発想の豊かさや、「デジタルツール」に対する感度に左右されます。オンラインの体験をよくし、「対面勤務でもオンラインで快適に」過ごせるように考えていくことがコツです。
手始めに、以下の3つに分けて
- 対面の良さをデジタルで再現することを考える
- オンラインデジタルツールで良くなったことを挙げてみる
- ハイブリッドワークで不快に感じていることを挙げてみる
どれくらい本質的な「働きやすさ」まで掘り下げられるか考えていきましょう。
1. 対面の良さをデジタルで再現することを考える
2020年以前から社会人だった人にとって、まずは対面の良かった点を挙げるほうが簡単かもしれません。それらをデジタルで再現する方法を考えていきましょう。
新入社員が分からないことがあったときにぱっと声をかけることができる
ぱっと声をかけられることは心理的安全性は高いと言えるが、頻繁に起こる業務の中断は生産性は高いのか。
→朝昼晩5分のハドルミーティングを設定しておくが、不要な場合は新入社員がスキップ宣言する
話しかけたいときに相手が忙しそうなら様子を見て分かる
そもそも相手が忙しいか気にしなければならないのは働きやすいのか。
→相手が忙しいかを気にせずにできる非同期コミュニケーションのルールを作る
偶発的にランチに行って親しくなることができた
働きやすさとしてランチである必然性はあるか。仕事にポジティブな最大効果が出せる内容、頻度やランダム性は本当はどれくらいなのか。
→オンラインでチームワークが求められるアクティビティを企画し、ランダムにペアを組んで取り組めるようにする
意外にデジタル化しようと考えるだけで、全く違うアプローチを思いついたりすることができます。
2. オンラインデジタルツールで良くなったことを挙げてみる
同様に、オンラインのほうが良かったことを挙げてみます。
声をかけるまでもないが重要な仕事の気付きをつぶやいたり、オフトピックな画像や動画で人を笑わせたりできるようになった
→Slackの分報でつぶやく、思いついたらすぐチームが共有できる場所にアイディアをメモするなどの新たな習慣
突然話しかけられて業務を中断することがなくなり、集中して生産的に進められるようになった
→自分へのメンションつきのChatでも非同期コミュニケーションと割り切り、区切りのいいところまでは返信せずに業務を続けられるようになった
→質問が口頭ではなくChatだけになったので、botでFAQドキュメントリンクを返信するなど自動化が進んだ
会議で発言しやすくなった
→オンライン会議のほうが会議室よりも臆せず発言できる(という人もいます)
いかがでしょうか。実はリモートワークに移行して雑談が減ったと感じる人ばかりではなく、以前からデジタルコミュニケーションツールを比較的使いこなしていた人のなかには何も変わらないか、オンラインのほうが良くなったと感じている人も必ずいるはずです。
3.ハイブリッドワークで不快に感じていることを挙げてみる
どちらの働き方でも公平にマネジメントできていますか?
急に個人的な話になって恐縮なのですが、私は前職で「日本のエンジニアともシンガポールのエンジニアとも同じようにチームメイキングするように」という命を受けていました。ところがオンライン会議といえば、日本の会議室から6人、シンガポールの会議室から5人で接続、というような環境でした。
残念ながらシンガポールの会議室で隣同士でボソボソ話しているような小話は会議室のオンライン会議システムではうまくマイクが拾わず聞こえませんし、フレームアウトしたエンジニアが話すと、今誰が発言しているのか分からない、といった具合でした。
当然、日本で対面で話したりランチに出たりするメンバーとのほうが早く打ち解けますし、仕事の質問もすぐ後ろを向けば誰かがいます。空中戦になりがちな話も、オフィス中の壁がホワイトボードだったので、気軽にそのへんに落書きをして解決していました。
1時間話して決めた仕様は、ホワイトボードからデジタルに書き起こすのが面倒なので、そのままスマホで撮影してそれをもう一度、シンガポールとつないでイチから説明する、というようなことをしていました。
待遇に差が出るのは仕方がないとさえ思うように・・・
シンガポールのエンジニアには申し訳ない話ですが、自然と日本のエンジニアのほうがスキルや得意分野、思考の特性がわかるので、どうしても仕事の振り方も偏るようになりました。それでも、対面のほうがやりやすく早いので、多少は仕方がないとさえ思っていました。
あっさり解決した方法とは?
ところがある日突然、世界的なコロナ禍で全員がフルリモートになりました。各自がPC1台ずつでZoom会議に接続するようになって、快適にひとりひとりと話せるようになったことに本当に驚きました。たったそれだけのことで、居住場所に関わらずチームの助け合いが一気に進むようになりました。
対面の人たちが会議室に集まるとしても、会議室のシステムからつながずに、PC1台ずつでつなぐ。それだけでも「接続場所の違い」という縛りから開放されて心理的な安全性につながります。このようなハイブリッドワークでの働き方については、米国のGitLab社が上手にルール化しており、参考になります。
働く体験はデジタルツールに寄せて設計する
働く場所による格差をなくすには、働く体験はデジタルツールに寄せて設計します。繰り返しとなりますが、対面で働く人にPCとネットワーク接続があればデジタルツールに参加できますが、オンラインでつないでいる人が対面の現場に実際に行くことはないからです。
- 1で思いつくデジタルでの対抗策がパッとしない
- 2で挙がる数がそもそも少ない
- 3のようにオンラインでしかつながない人の存在が蔑ろになっているに気づいていないか無視している
これらに当てはまった場合、デジタルツールの選定や活用方法、ルール作りがうまくいっていない恐れがあります。
今後もハイブリッドワークで仕事をするスタイルは定着し、人材獲得のしやすさにも影響します。従業員満足度を高めていくことは業績向上にも連動していくと考え、デジタルツールの情報収集は常に怠らないようにしていきましょう。その際、バーンアウトを招きやすい6つの危険因子がしっかり避けられているか、チェックリストとして活用し観察していくとよいでしょう。
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