プロジェクトにゴーサインが出たと思ったのに意思決定権のある誰かにあとから阻止され、出端をくじかれたことはありませんか。すべての主要関係者からきちんと賛同を得るためにできる最善の方法。ステークホルダーのマッピングによる分析も、その一つです。
社内での地位には関係なく、やろうと思えば誰もがイノベーションを起こし、変革を推進することができます。ただし、その計画を推し進めるめには、ステークホルダーの賛同を得なければなりません。しかし全員の同意を取り付けることは、そう簡単にはいかないものです。ここではこのプロセスを支援するため、プロジェクトを円滑に進めるヒントを集めた、ステップ・バイ・ステップ ガイドをご紹介します。
ステークホルダー マッピングとは
ステークホルダー管理の重要なプロセスであるステークホルダー マッピングの目的は、ステークホルダーの関係性を視覚的に整理し、把握することにあります。製品、プロジェクト、アイデアの選考に発言権を持つすべての部門のステークホルダーを 1 つのマップ上に配置し、ステークホルダーの役割や自分自身との関係性をまとめます。
ステークホルダー マップの主なメリットは、自分の作業に影響を与える可能性がある、すべての関係者と、その周辺の人間関係を確認できる点にあります。関連するステークホルダーをマッピングしておけば、組織内の重要なパートナーであるステークホルダーとのエンゲージメントにフォーカスし、スムーズに関係性を構築できます。
シンプルなステークホルダー マップの例
このシンプルなステークホルダーマップ テンプレートでは、フローチャートの構造を使い、人物とプロジェクトの関係性を示すことができます。中央には、自分の製品やプロジェクトを配置します。中央の製品に向かう矢印は、どのプロジェクトのステークホルダーが製品の製作に影響を与えのるかを示し、製品から外に向かう矢印は、このプロジェクトが影響を与える可能性があるステークホルダーを示します。
これはステークホルダー マッピングに使えるほんの一例であり、他にもさまざまなテンプレートをご用意しています。以下のテンプレートリストをご覧ください。マッピングを始める前に、まずはステークホルダー マップに何を求めるのか、あらかじめ考えておきましょう。
ステークホルダー マッピングのメリット
ステークホルダー マッピングは、ステークホルダー管理の大きな枠組みの中の手法のひとつであり、プロジェクトの目標を達成に導く組織内の関係構築のための、戦略的なアプローチです。ステークホルダー マッピングを使ってプロジェクトの成功を左右する組織内の主要な関係者を特定し、コミュニケーションとアプローチの対策プランを作成できます。
1.最も影響力のある人物を明らかにする
ステークホルダー マップを使えば、CEO、プロジェクト マネージャーなど、プロジェクトの進め方に関して最も影響力を持つ人物を簡単に把握できます。
2.最も恩恵を受ける人物にフォーカス
ステークホルダー マップを使えば製品化した後に最も恩恵を受ける人物を把握することができるため、その人物に対するマーケティングを行うためのリソースに注力できます。
3.リソースが最も豊富な場所を確認
ステークホルダー マップを使って、制約下にありプロジェクトに対する影響力が限定的な人物とリソースが豊富な人物をあぶり出し、この情報をもとにプロジェクトチームに適切な人材を配置することができます。
4.ターゲットを定めたプランを策定
ステークホルダー マップでは、誰に対して製品やプロジェクトへの満足度を高めようとしているのかを明確化し、事業の方向性を見直すことができます。
ステークホルダー マップが必要となるタイミング
大規模なプロジェクトや主要製品のローンチにおいて適切な人材を選ぶために、ステークホルダー マップで詳しく確認しておくことをお勧めします。
1.製品の開発
ゼロから新製品を開発する時にはまず、プロジェクトの主要なステークホルダーを把握する必要があります。ここで、製品開発に関与するステークホルダーをリストで確認してみましょう。
- 顧客/ユーザー:使いやすい製品を開発するためには、オーディエンスを知ることが極めて重要となります。ユーザー調査を実施し、ターゲットオーディエンスのニーズ、要望、ユーザーが経験する問題点をチェックし考慮にいれましょう。顧客ベースをより深く理解し分析するために、ユーザーペルソナ テンプレートの使用をお勧めします。
- 業界/市場:製品開発に関する調査の他にも、その製品を売り出す市場の調査と競合分析も必要となります。競合他社の状況や市場の慣行を調べれば、市場トレンドに沿って事業を進めるための有用なデータを取得できます。
- サプライヤー:特に Airbnb、Uber、BlaBlaCar といったようなデジタル プラットフォームの製品、サービスの場合、サービスの供給を確保することは、需要を生み出すことと同じ様に重要となります。サービス プラットフォームを構築する際に、主要サプライヤーを割り出し、必要に応じて需要と供給のバランスを維持するためにどのような方法で「テコ入れ」できるかを検討しておくべきでしょう。
- 投資家:資金援助を受けている場合、投資者であるベンチャーキャピタル企業は自社製品の将来を左右する影響力を持つため、重要なステークホルダーとして考慮したほうがよいでしょう。同様に、上場企業は株主に対して説明責任を果たす必要があります。
2.市場への参入
自社製品で新規市場での展開を目指すときにも、ステークホルダー マッピングが重要となります。このリサーチでは、以下の主要なステークホルダーについて調査を行います。
- 新規顧客:自社製品を認知していない顧客層のニーズを今一度確認する必要があります。その顧客セグメントにサブグループはあるかどうかもチェックしましょう。新規顧客に関する理解をより深めたい時には、ペルソナテンプレートがおすすめです。
- 既存顧客:どのペルソナが、会社の持続的な成長に不可欠でしょうか?このペルソナをマップに加えて取り組むべき課題を把握することが、製品開発を成功に導く鍵となります。
- 小売業者:プロジェクトの主な外部ステークホルダーである小売業者。物理的な製品、デジタル製品、どちらを扱う場合にも、新たなオーディエンスを獲得するためには、強力なパートナーとの連携が必要となります。
- コミュニティー メンバー:実店舗を運営する場合には、コミュニティーへの働きかけと、利用者の声に意識的に耳を傾けることが、信頼関係を築く鍵となります。時間をかけてコミュニティーの主要な企業、学校、非営利団体と密な関係を築き、コミュニティーのニーズを把握できるようコミュニケーションを育みましょう。
3.プロジェクトを一からスタート
新規のプロジェクトを開始するときは、まず内部ステークホルダーに話を聞き、目標を達成できるだけのリソースと内部支援を得られるかどうかを確認する必要があります。上層部に提案を行うときはまず、重要な意思決定を行う人物が誰なのかを前もって把握しておき、その意思決定者の心に響く説得方法をチェックしましょう。以下は、組織内のステークホルダーの例です:
- プロジェクト マネージャー
- プロダクト マネージャー
- 法務部門
- CEO/経営幹部
ステークホルダーのタイプ
製品開発やプロジェクトには、内部ステークホルダーと外部ステークホルダーが関与します。この両者のステークホルダーのポジションを理解しておくことで、適切な優先順位とアプローチの方法を設定することができます。
内部ステークホルダー
内部ステークホルダーとは、製品の開発やプロジェクトの実施に関与する、チーム内の人物を指します。関与の度合いはさまざまですが、組織の一員であるため、全員がなにかしらの影響力を持っています。次のような人物が内部ステークホルダーに該当します。
- CEO/経営幹部
- プロダクトオーナー
- プロジェクト マネージャー
- 代理店/コンサルタント
- デザイナー
- 開発者
外部ステークホルダー
外部ステークホルダーとは、プロジェクトや製品の開発プロセスには直接関与しないものの、その影響を受ける人物を指します。外部ステークホルダーの例はこちらです。
- 顧客
- パートナー各社
- 株主/投資家
- サプライヤー
- 政府機関
- コミュニティーメンバー
ステークホルダーと株主の違い
ステークホルダーと株主は混同されがちです。株主は株式を通じて上場企業の一部を所有し、その企業の業績に利害関係を持ちますが、プロジェクトレベルでは影響力を持ちません。一方ステークホルダーは、さまざまな領域でプロジェクトに影響力や利害関係を持つ人物のことをいいます。
4 つの簡単なステップでステークホルダー マップを作成する方法
次に、ステークホルダー マップの実際の作成方法とその使い方を見ていきましょう。ステークホルダー マッピングのプロセスに必ず含まれるべき 4 つのステップは次のとおりです。
1.ブレインストーミング
まず、製品またはプロジェクトの影響を受ける人物、グループ、組織と、影響力を持つ人物、またはプロジェクトの成功において利害関係がある、関心がある人物など、すべての潜在的なステークホルダーを特定します。
この作業には、Miro のようなオンラインの共有ワークスペースで付箋やマインドマップを使い、該当する名前を書き出していきます。この時点でできる限り詳細を書き出し、完全なリストを作成できるように心がけましょう。あとで重複している人物や直接関与していない人物を見つけたら、もちろんいつでも除外できます。
2.分類
次にブレインストーミングで議論した結果をまとめ、分類していきます。1 つのカテゴリーにまとめられるステークホルダーのタイプはあるでしょうか。そのカテゴリーにはどのような名前を付けますか。カテゴライズするのを忘れたステークホルダーのグループはありませんか。Miro の AI 技術を活用すれば、付箋をすばやくまとめ分類することができます。
主要なステークホルダーを忘れていないかどうか確認するために、「ステークホルダー マップが重要になるケース」セクションをチェックし、プロジェクトで必要とされるステークホルダーのタイプの例を参照するといいでしょう。
3.優先順位付け
多くのステークホルダーが関与する複雑なプロジェクトでは、密にコミュニケーションを図るための方法を策定するために、まずはステークホルダーの優先順位付けを行うことが非常に重要となります。この実践方法としては、誰を主要な関係者とみなしているかプロジェクトチーム メンバーに問う投票、または Mendelow マトリックスを使ってもう少し詳しく分析を行うやり方があります。
Mendelow ステークホルダー マトリックスを使った優先順位付け
ステークホルダーの優先順位付けの最善の方法の 1 つとして、Mendelow の影響力/利害関係マトリックスがあります。研究者、オーブリー・L・メンデローが開発したこのマトリックスを使えば、影響力と利害関係を基準にして、ステークホルダーを 4 つのカテゴリーに分類できます。
このマトリックスでは、各ステークホルダーを次の 4 つのカテゴリーに分類します。
- 影響力大、利害関係大(徹底して管理)
- 影響力大、利害関係小(満足度を維持)
- 影響力小、利害関係大(常に情報を提供)
- 影響力小、利害関係小(モニタリング)
このステップを通して、各人がプロジェクトにどのような影響を与える可能性があるのかを把握し、それぞれのステークホルダーに対する適切なコミュニケーションの方法を決定できます。
このプロセスを実行するためのテンプレートが必要な場合は、Miro ユーザーのジョン・スプルース氏が作成したステークホルダー マトリックス ボードをおすすめします。
4.ステークホルダーとのコミュニケーション
優先順位が決まったら、ステークホルダーとのエンゲージメントを高める戦略を策定することが重要となります。ここでご紹介するベストプラクティスは、プロジェクトの透明性と信頼関係を確保する目的に役立ちます。
- 影響力/利害関係マトリックスのカテゴリーごとに、それぞれのエンゲージメント戦略を策定していきます。
- 影響力と利害関係が大きい人物とは頻繁にコンタクトを取り、コミュニケーションを深めていく必要があります。プロジェクトを進めていくうえで、まずそのような影響力のある人物との信頼関係を築くことがきわめて重要となるからです。
- プロジェクトに反対する人物が表れたら、同程度の影響力を持つ人物から賛同を取り付け、説得をしてもらうことができます。
- ステークホルダーは決断を下す前に検討する時間を必要とするため、初期段階で頻繁にコミュニケーションを取っておくことも重要です。
- 各ステークホルダーの利害関係に応じて情報量を管理します。適切な範囲の情報を提供しましょう。エグゼクティブ サマリーだけが必要な人物もいれば、より詳細を求める人物もいます。
ステークホルダーマッピング テンプレートの例
ステークホルダー マップの作成方法は何種類かあります。以下の既製のステークホルダーマッピング テンプレートを活用してステークホルダー分析にすばやく着手すれば、時間を節約することができます。
カレン・マンハス氏の提案するステークホルダー マッピング
カレン・マンハス氏作成の、使い方も簡単なバーチャルボードを活用すれば、ステークホルダーを管理者、サポート、コアチーム、外部などのカテゴリーに分類することができます。アイコンで表示された各ステークホルダーを色分けなどでラベリングし、各ステークホルダーへの情報提供の頻度を確認できます。
Devbridge のステークホルダー管理
この Miro テンプレートでは、影響力/利害関係マトリックスでまず詳細を整理し、「このステークホルダーは事業の成功にどれだけの影響を及ぼすか」、「このステークホルダーの動機は何か」といった質問に答える質疑応答形式を用いて、ステークホルダーをカテゴリー分けしていきます。このプロセスで各ステークホルダーがプロジェクトに期待する内容が明確化されるため、コミュニケーション戦略のブレインストーミングを行う時に役立ちます。このプロセスを通して、提案への支持者と反対者、その双方に対してどのように対応しコミュニケーションを深めていくべきか把握することができ、ステークホルダーとのエンゲージメントを戦略的に行う方法を策定できます。
H&R Block のステークホルダー RACI チャート
Mendelow マトリックスに代わる情報の可視化メソッドに、RACI チャートがあります。RACI は、実行責任者(Responsible)、説明責任者(Accountable)、相談先(Consulted)、情報共有先(Informed)の頭文字を取ったものです。このマップは、影響力の輪の広がりを示す的のようなデザインとなっています。ステークホルダーを最も重要度の高い実行責任者から最も重要度の低い情報共有先へとレベルに分けて図式化し、影響力の大きいステークホルダーをラベル付けしてステークホルダー間の関係をマッピングできます。
VMware Tanzu Labs のステークホルダー マップ
ステークホルダー マッピングのワークショップには、このマップが役立ちます。Miro ユーザー VMware Tanzu Labs 作成のこのマップで、ステークホルダーをブレインストーミングするためのスクリプトとテンプレート、RACI マップ、そしてフィードバックのテンプレートを利用できます。このテンプレートには、ファシリテーター向けの説明、ツールのヒント、リモート作業のベストプラクティスといった追加情報も含まれています。
ステークホルダー マッピングに最適なツール
直接(物理の)ホワイトボードに付箋を貼ってステークホルダー マップを作成することも可能ですが、バーチャルでマップを作成することで生まれる利点があります。バーチャルステークホルダー マップのメリットの 1 つは、スマホでボードの写真を撮って後でまとめなおす手間がいらずデータの持ち運びが可能なことに加え、いつでも内容を見直して編集できる点にあります。
また Miro のようなオンライン ワークスペースは、リモート環境で働く関係者もまじえてリアルタイムで共同作業を進めるためには、不可欠です。
ステークホルダーマッピング ツールを選ぶときには、次の 4 つの機能がそろっているかどうかを確認してください。
- リモートの参加者がリアルタイムで参加しマップを編集できるライブ コラボレーション機能
- チームメンバーがマップ作成中や表示中に対話できるビデオ、音声インテグレーション機能
- 付箋、矢印、分岐、色分けなどのユーザーフレンドリーなビジュアル機能
- マップに技術スタックを統合したり、技術スタックにマップを統合したりできる共有モードとインテグレーション
主要関係者から賛同を得るための最善の方法として、ステークホルダーの分析とマッピングがあげられます。プロジェクトや製品の開発が、組織内で支持を得られるようはたらきかけをするためのプロセスを円滑に進めるヒントを集めたステップバイステップ ガイドを作成しました。