現代のビジネスシーンにおけるデザインチームの役割は、劇的に進化しました。かつては美的センスや最終的な成果物に限定されていたデザインが、今や顧客中心主義やイノベーションを推進する上で重要な役割を担っています。この役割の変化により、デザインチームは周辺的な存在からビジネス戦略の中心へと改めて位置付けされ、意思決定にも多大な影響を与えるようになりました。
オーストラリアのメルボルンで開催された 2024 年 Design Outlook(DO)カンファレンスの基調講演「ビジネスの意思決定におけるデザインの役割」で、Telstra のデジタル エクスペリエンス デザイン責任者であるジョン・ラザラ氏は、この進化に焦点を当てました。ラザラ氏は、デザインは従来「納品のためのチェック項目」と見なされ、必要なステップではあるが、戦略的インサイトに直接関係するものではないとされてきたことを強調しました。彼は、この考え方は時代遅れであり、可能性を制限してしまっていると主張し、デザインは戦略を形成し、ビジネスの成果を推進するために不可欠だと認識されるべきだと述べています。
では、さらに詳しく見ていきましょう。
現代のデザイナーが直面する課題
デザインの戦略的な可能性を理解するためには、組織内におけるデザインの歩みと現在も続く進化を認識することが重要です。Miro は Design Outlook カンファレンスでワークショップを開催し、その中で、120 人のデザイナーが直面する課題を挙げました。
-
プランニング: デザインチームには情報が伝達されるタイミングが遅いことが多く、その結果、プロアクティブなデザインではなく、リアクティブなデザインになってしまいます。
-
認識:デザインは、美的感覚や見栄えを良くするためだけのものだと誤解されがちです。
-
不一致:チームのコラボレーションが機能していない環境では、デザイナーは良い仕事をすることはできません。
-
マインドセット:リーダーは、デザインの価値とビジネス成果への潜在的な影響を十分に理解していないことがあります。
- 使命:デザイナーは、日々の業務と組織の広範な目標やユーザーのニーズとの整合性を見出すのに苦労することがあります。
デザイナー全員のコメントはDesign Outlook のラウンドテーブル Miro ボードに掲載しています。
戦略的デザインフレームワークの構築方法
「信頼関係を築き、整理する必要がありました。」
ラザラ氏は、デザインを戦術的なものから戦略的な機能を持つものへと高めるには、ビジネスの意思決定においてデザインの価値を実証する必要があると言います。彼は Telstra で、エグゼクティブ コミュニティーとデザインプラクティス コミュニティーの 2 つのコミュニティーを作りました。リチュアルや慣習によって成り立つこれらのグループは、デザインを会社の戦略的フレームワークの中核的要素として定着させました。
最も影響力のあるイニシアチブのひとつは、デザイナーがシニアリーダーに直接作品を発表する「ステークホルダー リーダー レビュー」でした。このレビューを行うことで、リアルタイムでの意見と戦略目標との整合性を保ち、デザインチームと経営陣との関係を強化し、また、デザインがビジネス戦略に不可欠であることが再認識されました。
ラザラ氏と彼のデザインチームが導入したもうひとつの重要なツールは、Miro 上で開催されている「Not This but This」ワークショップです。このテンプレート化されたプロセスにより、ステークホルダーはデザインの決定に直接関与することができ、企業目標と顧客ニーズの両方に沿った協力的な議論が促進されました。
デザイン プロジェクトの方向性について関係者の考えを一致させるためにラザラ氏と彼のデザインチームが作成した「Not This but This」ワークショップテンプレートを活用しましょう。
アウトプットだけでなく成果を重視
ラザラ氏のアプローチの中心となるテーマは、デザインワークの実際の成果物(アウトプット)ではなく、ビジネスや顧客へのより広範な影響(成果)に焦点を移すことです。多くの組織では、デザインプロジェクトの成功は、戦略目標にどれだけ合致しているかよりも、納期通りのものが納品できたかどうかで評価されます。このようなアウトプット重視の考え方は、事業の真のニーズからかけはなれたデザインを生む可能性があります。
ラザラ氏は、納期を守る機能だけでなく、問題を解決し、ビジネス上の成果を促進する機能によってデザインを評価することを提唱しています。最初からビジネスプロセスにデザインを統合することで、チームは他の部門と協力して問題を定義し、顧客中心かつ革新的なソリューションを開発できます。アウトプットではなく成果に焦点を当てることで、デザインチームは、製品やサービスが顧客の期待に応えるだけでなく、ビジネスを前進させるという重要な役割を果たすことができます。
サイロを打破し部門横断的な関係を構築
デザインを戦略的なレベルに引き上げるには、デザイン部門と他部門の間に存在しがちなサイロを解消することが重要です。多くの組織では、デザインは製品開発、マーケティング、その他の重要な部門から切り離され、孤立した状態で機能しています。このような分離は、より広範なビジネス戦略に影響を与えるデザインの可能性を制限し、一貫性のない顧客体験を引き起こすことがあります。
ラザラ氏による Telstra での取り組みは、こうした課題を克服するための青写真を提供しています。デザイナーを部門横断的なチームに組み込み、他部門との強い関係を育むことで、彼はデザインを主要なビジネスプロセスに統合しました。これにより、デザインの質が向上しただけでなく、卓越した顧客体験を促進するソリューションを生み出すという目標に向けた、組織全体の足並みが揃いました。
ジョン・ラザラ氏の デザイン批評ワークショップテンプレートを使って、デザインチーム内にポジティブな文化を育み、組織全体でデザイン教育の輪を広げましょう。
デザインリーダーシップにおける人間的要素の取り込み
成功するデザインプラクティスを構築するには、技術的なスキルだけでなく、人間関係を構築しコラボレーションを促し、プロセス全体を通して顧客のニーズに対応する能力が求められます。
Telstra におけるラザラ氏のリーダーシップは、デザインチームと経営陣内にアイデンティティーとコミュニティーの意識を生み出すことの重要性を強調しています。ラザラ氏は、信頼と参加を促進するリチュアルと実践を確立することで、優れた成果を提供するだけでなく、ビジネスの戦略的成果を推進することに焦点を当てたデザイン文化を育成しました。
デザインを戦術的な機能に限定して捉える企業は、成長と競争力を損なうリスクがあります。Telstra でのラザラ氏の取り組みによって実証されたように、デザインチームは、イノベーションを推進し、顧客がすべての意思決定の中心にあり続けることを保証する、戦略的パートナーとなることができ、そうあるべきなのです。
成果に焦点を当て、サイロを打破し、部門を超えた強力な関係を構築することで、デザインチームはビジネスの未来を形作る上で重要な役割を果たすことができます。さらに、デザインの戦略的価値を認識し、意思決定プロセスに組み込む企業は、優れた顧客体験を提供し、長期的な成功を収めるための好位置に立つことができるでしょう。